RICOH Image Pointer誕生秘話①
https://kibidango.com/project/1298/action/8909
RICOH Image Pointer誕生秘話②
https://kibidango.com/project/1298/action/8938
の続きです。
前回登場、謎の基板
こんにちは!リコーの和田雄二です。
前回はRICOH Image Pointerのアイデアが産まれるまで、をご紹介させていただきました。
本日はプロト1号機の製作と、そこへの反応をご紹介したいと思います。
プロト1号機の製作
チームメンバーだった米田が気を利かせて買ってくれていた謎の基板2枚は、1つがTI社のDLP2000EVMという開発者向けのプロジェクタ制作ボード、
もう一つがBeagleBoneBlackWirelessという小型PC基板です。
私は電子回路や電気工作にさして詳しくないのですが、この二つを上下に合体させることで、i2cという規格で通信してくれて、
Beagle Bone Black Wireless(OS側)から、DLP2000(光学系)の制御ができるようになります。
写真は上からなので見えませんが、両サイドの四角い黒い穴達の部分は、裏側が通信用の金属針みたいなものになっており、上下で組み合わせます。
合体させた正面図
こちらの評価キットは推奨品の組み合わせなので、マニュアルもしっかりしており、何も考えずにマニュアルに従って操作していけばプロジェクタができてしまう!という優れものです。
なのですが・・・
やはりなかなかうまく行きません。
BeagleBoneBlackWirelessにはOSとしてDebian Linuxを使うことが推奨されており、私もそれに従いました。そして、記載通りコマンドを打ち続けていくと、、、デバイスを認識しない。
結果としては色々試しつつ、TI社が提供しているチャットで状況を拙い英語で伝えたら、そこにいた凄く人(なんだと思う)が教えてくれて、なんとかなりました。
余談ながら、たまたま、中学生の頃にPC-UNIXブーム(正確にはLinuxブームですね)があり、私はFreeBSDというUNIX系のOSを学生時代通じて10年ほどメインで使っていました。(全然使いこなせませんが)
コピー機の設計を始めてからはもはや一生役に立つまいと思っていたこの知識が11年越しくらいで活きてきたことには非常に驚きました。
----ちなみに当時のメモの抜粋です----
デモ画面が投写されず、i2cdetectコマンドにてデバイスが見つからない問題は、本来BBBWが立ち上がると同時にDLPのPROJ_ON_EXT信号がhighに制御されるはずであるが、
狙い通りに制御されていないという不具合に起因している。
そのため、毎回手動でPROJ_ON_EXT信号をhighにする必要がある。その手順は以下。
$ sudo su
パスワードはデフォルトから変えていなければ、temppwd
$ echo 48 > /sys/class/gpio/export
$ echo out > /sys/class/gpio/gpio48/direction
$ echo 1 > /sys/class/gpio/gpio48/value
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不具合があったらしいです。
同時期に・・・外国人旅行者の方との交流
唐突ですが、この時期、私は勤続10年でもらえる連休を使って、長野県上田市に旅行に行きました。
行きの新幹線で、突然外国人観光客の方に話しかけられました。
内容としては、「自分の持ってるチケットでこの車両は正しいか?」という質問でした。最初に見たときに、Car No.が違っていたから、Car No.が違いますよ、と言ったものの、
よくよく見ると、目的地も載ってる電車も違う。でも、東京を出発したばかりで大宮で乗り換えがギリギリ効くかもしれない、という際どい場面。(スマホで急いで調べました)
そして、その結論を伝えようという時、非常に困ったんです。
英語で伝えるのが厳しいっていうのもありますが、それよりなにより、スマホの時刻表を見せて説明することの難しさです。
小さい画面で、一緒に見て、それを説明する。お互い見えづらいから説明しにくい。
これには驚きました。これだけ情報化が進んでいる中で、同じ場にいる人と一緒の画像を見て説明するのに、こんなに面倒なのかと。
そもそも最新IT機器の象徴ともいえるスマホを、一緒に覗き見るというアナログな動作。ここに非常に強い違和感を持ち、RICOH Image Pointer(当時はレーザーポインタ型ハンディプロジェクタ)はこういう場面に使えるのではないか!と、CIAOちゅ~るから始まったデバイスアイデアと繋がったのです。
調べていて発見。ターゲットがインバウンドだったときの文書
この活動報告を書くに辺り、この時期のRICOH Image Pointerについての報告書(中身は単にBeagleBoneBlackWirelessとDLP2000EVMを使う時に困ったことを書いただけのもの)を見返していて、私が報告書の背景としていた文章を見つけました。
〇〇白書が大好きだったのと、外国人観光客の方とのエピソードが強く心に刻み込まれてた頃の内容です。
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日本の成長戦略において、インバウンドへの対応、及びそれによる更なる増加を一つの柱としている。
具体的な場面を想像した際に、例えば、外国人観光客に何かを尋ねられた際、スマートフォン(スマホ)で情報を調べてそれを説明する、といった場面が想定できる。
そのような場面では即応性のある情報交換が必要ではないかと仮説を立て、いつでも、どこでも、何に対してでも、すぐにスマホの画面を投影することができるハンディプロジェクタが新しい使い方、新しい行動を
与えられるのではないかと仮説を立てて、リーン開発を行うことにした。
また、上記ではインバウンドを対応の主眼としたが、もっと身近な場面で言えば展示会や商品売り場で質問に対し、スマートフォンで調べて画面を見せてもらう、
集団で外出して調べた情報を皆で覗き込む、会議で出てきたキーワードを調べて皆に説明して共有する、といったスマートフォンの情報を時間と場所を共有しているメンバーに対し、
即時共有できるということは潜在的なニーズがあるのではないかと同様に仮説を立てている。
なお、以下にインバウンド増加に対する情報通信白書の記載を抜粋する。
日本ではインバウンド増を成長戦略の柱の一つとしており、情報通信技術をその為の技術として活用することの必要性を示している。
<平成30年版 情報通信白書より抜粋>
2016年3月には、内閣総理大臣を議長とする「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」において、2020年に訪日外国人旅行者数を4,000万人、訪日外国人旅行消費額を8兆円とし、
さらには2030年にそれぞれを6,000万人、15兆円とすること等も踏まえた、その実現のための施策を、「明日の日本を支える観光ビジョン」(以下「観光ビジョン」という。)としてとりまとめた。
観光ビジョンは、観光は「地方創生」への切り札であり9、GDP600兆円達成への成長戦略の柱であるとし、国を挙げて「観光先進国」という新たな挑戦に踏み切る覚悟が必要であることを示した。
<平成29年版 情報通信白書より抜粋>
観光客向けの情報発信やWi-Fi整備等の観光振興策を行っている地方自治体では、インバウンド増加をはじめとした成果を実感している。
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プロト1号機の完成とお披露目!
こういった技術的な苦戦やら、本当に何故たまたまこんなエピソードに出会えたのかわからない外国人旅行者の方との会話。
こんな中、ついにプロト1号機が完成しました。
ケースは購入するものを間違ってしまったので、適当に切って輪ゴムで止めてみたり(上の写真)、テープで貼ってみたり(下の写真)といういい加減な感じでした。
この時点では、OS側が制御するWindow Systemを表示するというシステムです。予め写真では転送した画像を表示しています。
そして肝は赤いボタン!
このボタンで消灯のON/OFFを制御します。構造は極々単純で、ボタンを押してるときだけDLP2000に通電されるように配線しただけです。
(OS側は1secおきくらいで常にDLP2000に通信命令を入れていて、電源が入ったらすぐに通信開始するようにしました)
実は、チーム内ではあまりこのアイデアが最初から歓迎されている雰囲気がなかったので、ここまでこっそりやってました。
とはいえ、モノが出来たのでチームで披露です!
「僕には価値が全くわからない」
このデバイスを見たときのチームリーダーの最初の言葉でした。
大まかな評価としては、
利用シーンが全然ないし、技術的にもまったく足りていない、価値がない。
展示してみて、アンケートの結果がどのくらいだったら継続する?事前に継続/やめる条件を決めて。(言いたいことは「やめなさい」なわけですね。)
「まぁ、使うという人が80%超えるくらいのアンケート結果だったら、続けるってことにします」と何の根拠もない適当な話で、この場は結論にしました。
部署内展示会
チームで大不評だったのですが、チームの成果として展示会とアンケートをすることにしました。
そのとき、私と米田が展示を行ったので、一緒に準備していました。(ちなみに米田は別のネタで、そちらはそちらで順調に進んでいたりします。凄い!!)
結果は、、、平たく言うと大不評でした。
私の外国人旅行者エピソードが突飛すぎること、ボタンの価値を今ほど明確に伝えられなかったこと、その他色々要因はあると思います。
一方で、部署内展示会/アンケートだったため、物凄く意見が偏るという特徴が、活動を今日までやってきて初めて分かりました。
技術者は技術者目線でモノを見てしまいがちで、一つも新しい技術が入っていないこのプロトに魅力を感じることはなかったのです。
そして、一度RICOH Image Pointerは封印されました
部署内のウケも悪い。
翌年からは心機一転、私がチームリーダーで同系統の活動をすることになったということもあり、
RICOH Image Pointerは、最後のまとめ/出口としてたまたまやっていたRICOH ACCELERATOR 2019(2020年よりTRIBUSと名称変更されています)に軽い気持ちで応募してみました
皆がつまらないと思うなら本当にそうだろうからやらないし、全然違う場所に出してみて、面白さを見出してもらえるならやりたい。
自分自身このデバイスに対してはこの時点では中途半端な気持ちだったと思います。
ですが、この「誰がプロダクトの価値を見出してくれるのか」「誰が価値を感じてくれることが大切なのか」ということは、今も非常に重要だと考えており、
そのため、クラウドファンディングでお客様の声を直接聞きたい、という今の活動に繋がっています。
次回は、RICOH ACCELERATORの話も含めて、一度封印されたRICOH Image Pointerが活動再開するところをご紹介したいと思います。
お読みくださいまして、誠にありがとうございました!
和田