Photo Life Laboratory ULYSSESの魚住です。
バックパッカーズポーチの作り方、第三話目となる今日は、いよいよバックパッカーズポーチ(BPP)を具体的に作り始めるフェーズに入ります。
この小さなポーチを作り上げるまでに、何度も設計変更が待っていようとは、この時点は想像もしていませんでしたが…。
クラリーノとの出会い
「クラリーノという素材を使って、何か作ってみませんか?」
きびだんごさんからそんなお誘いを受けたのは、ちょうどBPPを作りたいと思っていた2018年7月のことでした。
クラレの人工皮革「クラリーノ」と言えば、小学生が6年間お世話になるランドセルに使われたり、スポーツブランドのスニーカー等のアッパーにも使用されている素材であり、非常にタフで経年変化に強く、バリエーションも豊富です。
BPPは季節や天候を選ばず使えるようにしたかったので、クラレさんと引き合わせて頂いたことは、非常にタイムリーだったのです。
当初、防水レザーを自社開発しようかなどと頭を悩ませていた僕は「クラリーノ」を使ってのものづくりにチャレンジすることにしました。
最初は縦型だった
さて、BPPを具体化するにあたり、「財布・スマホ・キー」の3個だけ入るような超小型のボディバッグを仕立てたいということだけは決まっていましたが、サイズを厳密に決めるためには、もう少しレギュレーションを煮詰める必要がありました。
具体的には、ざっくり次のようなものです。
中に入れるものの定義
「財布」とは? → ミニ財布および折財布。長財布は含めない。
「スマホ」とは?→ iPhone X MAXサイズまで。
「キー」とは? → 一般的なキーケース、もしくはキーホルダー。
入れ物としてのルール
1.ストラップの長さを自由に・瞬時に変えられること。
2.バックパックの邪魔にならないこと。
3.自転車の運転を妨げないこと。
4.一覧性が高いこと(→開口部が大きく開くこと)。
5.出し入れがしやすく、中に入れたものが互いの邪魔をしないこと。
この中で、当初いちばん重視したのは、とにかくバックパックと併用した際、胸の前で収まりが良いように横幅を抑えることでした。
サイズ的には横型でも縦型でも行けることは分かっていましたが、少しでも幅を狭くしたかったことから、斜めがけのボディバッグとしてはマイナーな縦型のフォルムにすることにしました。
開口部はファスナーで弧の字型に開くようにして、1気室の中にスマホを仕分けできるようなポケットをつけました。
身につけた時の雰囲気やフィット感も悪くなく、これであっさり決まるのかと思ったのですが、実際に普段遣いしてみたところ、ルール3「自転車の運転を妨げない」に引っかかることが分かりました。
普通に立っている時は問題ないのですが、クロスバイクやロードバイクのような、前傾姿勢になるタイプの自転車に乗ると、胸の前でブラブラしてしまうのです。
ポーチから生えているショルダーストラップの取り付け位置が高いため、縦長の本体がよだれかけのようにぶら下がってしまうのが原因でした。
それならばとストラップの位置を下げてみれば、今度はデザインが「やっこ」のようになってしまい、ブラブラはしなくなるものの不格好で欲しいと思えなくなりました。
また、できるだけ開口部が大きく開くようにファスナーを長めに使ったのですが、デザイン的に悪目立ちする割に、それほど利便性は上がりませんでした。
がま口モデル
やっこ型に見えてしまうのは、オーソドックスなボディバッグによくある「腕」を生やしていることが原因でもあったので、もっとシンプルに出来ないかと考えました。ボディバッグというよりむしろ、ただの革袋みたいにしてはどうか?
そこで、ファスナーを使うこともやめ、それでいながらガバッと大きく開くように、特殊な口金(くちがね)を使うことを思いつきます。
この、つまみが存在しない口金は「天溝押口(てんみぞおしぐち)」と言い、ストッパーとなる突起が外ではなく内側についているので、がま口感がなく、スッキリ美しく仕上がります。
試しに作ってみると、開口部が線で開くファスナーと比較して、大きく面で開くので一覧性が高く、デザイン的にも悪くなさそうでした。
ところが、もうほとんどこの方向で行くつもりでサンプルを作り、使用実験を繰り返すうちに、別の問題が浮上してきました。スペース効率や細かい使い勝手が悪いのです。
そもそも縦長のサイズに決まった大きな理由は、中に入れる予定の物の中でもっとも細長い、iPhone Xs MAXに縦のサイズを合わせたことによります。
この縦長の袋に、スマホ以外のもの…折財布やキーケースなどを入れると、大きなiPhoneよりは全長が短いので、ポーチの下の方に沈みます。いきおい、深い穴に指先を突っ込んで物を取り出すような運用になるので、出し入れが快適とは言い難くなりました。
そこでキーホルダーのような不定形で小さな塊が底の方に落ち込まないよう、浅いポケットを用意してもみたのですが、そうするとポケットから下は利用できません。つまり、どうやってもどこかにデッドスペースが出来てしまうのです。
また、最大の目玉である天溝押口そのものにも、立体的な袋と組み合わせて作るには向かない製造上の問題があることが分かってきて、BPPづくりはとうとう暗礁に乗り上げます。
そこで、ここまで数ヶ月かけて取り組んできた「縦型」というコンセプトを、いったん白紙に戻すことにしました。
(つづく)