『BAKUSOLE』開発の経緯について
当社㈱UCHIDA は、1968 年に創業し埼玉県入間郡三芳町に拠点を構え、炭素繊維強化プラスチック(カーボン/CFRP)を中心とした複合材料の成形加工をワンストップで行うことを強みとして、あらゆる次世代モビリティの試作開発を行うモノづくり企業です。
㈱UCHIDA社屋外観 @埼玉県入間郡三芳町
『人の身近に役立つものづくりへ』
当社の技術は創業時のマネキン製造から、2輪・4輪・航空・宇宙・防衛・医療・福祉・アート・産業機器など、幅広い分野の試作開発や製品づくりに貢献してきました。そんなハイエンド向けの事業を行いながら「もっと人の身近に役立てるモノづくりができないか。」という代表、内田敏一の想いから、2014年に所沢市の国立障害者リハビリテーションセンターと共同で「軽量・高剛性なカーボンを使用した革新的な脊髄損傷者向けの長下肢装具を、装具のイメージを払しょくする先進デザインで作ろう!」というプロジェクトを発足しました。
本開発は試行錯誤を重ねた結果、2021年、要求仕様を搭載した”オリンピックモデル”として完成、皆様の記憶にも新しいTOKYO2020オリンピック聖火リレーのトーチイベントにおいてパイロットユーザーが装着し、さっそうと進む勇姿をお披露目することができました。当社としてのプロトタイプ製作ミッションはここで完了。将来の事業化にあたっては、共同開発者の研究者にバトンを託しました。近未来、軽くてカッコイイ装具として商品化され、一人でも多くの方々に使っていただけることを心から願っています。
カーボンインソール『BAKUSOLE』開発のキッカケ
-コロナ禍 2020年の年末のできごと
世間では今までに経験のない自粛生活が求められていた時期のことです。我が家の子供たちも家から出られず、公園にも行けず・・思うように身体を動かすことができないことでストレスが溜まり気味になっていました。そこで思いつき実行したのが、親子で自宅前の私道を走ったり、バトミントンをしたり縄跳びをしたり、というコロナ禍なりの遊びや運動でした。家の中でじっとしていて飽き飽きしていた子供たちがパタパタと走り回る光景を見て、「うちの子って・・足遅いんだよなぁ~何とかしてあげられないかなぁ。」と、ぼんやり眺めていました。そして、「うちの会社の技術で、この子達の足を速く走れるようにできたら・・運動会が楽しい♪って、もっといい笑顔が見れるのでは?」という名案(迷案?)が浮かんだのです。そんな思いが原点となり、CFRPのばね効果を使って、走行をサポートするインソール開発の企画がスタートしたのでした。
開発のステップ
はじめは、計測評価がしやすい自分たち(成人サイズ)で試作し、会社の前の道路を使って、50m走や立ち幅跳び、垂直飛びなどを行い数値的な評価を行っていました。
立ち幅跳びの計測
しかし、身体のコンディションなどによって、バラツキが多くデータとしての信ぴょう性に欠けることから、充実した計測環境を保有する埼玉県立大学に相談しました。そして共同研究の開始から1年半かけて、データの計測評価を行いました。
データドリブンによる本格的な開発へ
埼玉県立大学では、歩行や走行において非常に微細なデータを計測できる国内でも数少ない充実した計測環境を保有しています。例えば、トレッドミルに内蔵された床反力計やモーションキャプチャを組み合わせることにより関節の動きや床反力の方向をCGで可視化することができたりします。
関節の動きや、床反力の方向を可視化することが可能
帯同いただいた国分貴徳氏は理学療法学科の准教授であり、身体の仕組みや発達などの分野において幅広い知見のある先生で、本開発にも多大なる貢献をいただきました。
埼玉県立大学でご協力いただいた皆さま
子どもの計測へ
計測時には子供たちを連れていき、インソールが「無い状態」と「入れた状態」で、筋活動にどのような変化があるのか、蹴りだしの推進力はどのように変化するのか、その際にインソールはどの程度曲がっているのか、などを何回も計測し、データと国分先生の助言をいただきながら更に改良を進めることができました。
計測画像
開発を続けてこられたモチベーション
ここまで、企画から2年半に及ぶ長い道のりでしたが、続けられたモチベーションは大きく2つあると考えています。
1) 子供たちが期待してくれている!
これが一番大きいです。運動会が近くなると「まだインソールできないの??早くつけて走りたい!」と嬉しそうに言ってくれました。幼い子供ながら、このインソールを待ち望んでくれている!何とか完成し、販売までもっていかなければ!というモチベーションに繋がり、開発への気持ちを後押ししてくれました。
2) 開発チームと会社に対する気持ち
自分の想いつきから始まったプロジェクトに、楽しみながら真剣に向き合ってくれたチームと、2年半の開発を温かく見守ってサポートをし続けてくれた会社への期待に応えたい!という想いが大きくありました。
今回のインソール『BAKUSOLE』は、研究開発だけでなく販売に繋げることが一つの目的でした。しかし、これまでBtoB事業をメインとしてきた当社には、一般消費者に対するマーケットの知見がありませんでした。そこで販売に向けて、埼玉県産業技術総合センターによる商品化伴奏支援を活用し、ご協力いただいたデザイナーさんに商品化に向けた継続的な支援をいただいて、何とかここまで進むことができました。
直接的な運動へのサポートについては、これまで得たデータによって立証されました。あと叶えたいミッションは、ただ1つ!走ることや、運動会に対してネガティブな気持ちがあるお子さんたちが『BAKUSOLE』を履くことで、外に出ることや走ることが楽しくなって、キラキラ笑顔になることです。どうかこの『BAKUSOLE』が、内面的なサポート役となって元気な子供たちの溢れる笑顔に繋がりますように。