Iphone内の下絵を確認しつつ石版に描画するMariya Suzukiさん。手指が石版に触れないよう慎重に。
皆さま、あけましておめでとうございます!このクラウドファンディングをはじめ、石版リトグラフおよび工房復興へ向けて本格的に動き出す2019年。私たちRe:lithoにとって本当に大切な一年だと捉えています。本年もなにとぞよろしくお願いいたします!
なぜMariya Suzukiさんなのか
さて、もう昨年末のことになってしまいましたが、東京を拠点にご活躍されているイラストレーター、Mariya Suzukiさんを車木工房にお招きして、石版リトグラフ作品 計3点の制作を行いました。
《Mariya Suzuki プロフィール》
奈良生まれのイラストレーター。カリフォルニア州ロングビーチでイラストレーションを学び、現在は東京をベースに活動中。国内外の多くのミュージシャンや食のプロフェッショナル、本や雑誌など、幅広くイラストを提供している。紙媒体に加え、インテリアのアクセントとなるような壁画も手がける。まちを歩きながら、心に響く形やストーリーのあるものを描くことが好き。
私たちがすすめている活動の中核を担うプロダクトライン、新進クリエイターと職人のコラボレーションシリーズ「&CREATORS」。その第一弾となるパートナークリエイターをMariya Suzukiさんに決めたのは、たくさんの理由がありました。
理由1|ほしい!
まずはじめに、私たち自身がほしい!と思える作品を描かれる方であること。私たちの中にこの欲望がなければ、初の試みとなるクリエイションを遂行することはできない、と考えたからです。日ごろの業務で培ったコネクションを活かしつつ、さまざまなクリエイターさんを検討するなか、Mariyaさんにたどり着き、彼女のInstagramを拝見したとき。我が家のどこに飾るか、すでに考えて始めている自分に気づきました。
作品のひとつ。リアルで洗練されているけれど、どこかあたたかい、細かな描き込みの街並み。こんな絵、ほしい!
理由2|新しい!
モダンなセンスを持ち合わせた方であること。昨今盛り上がりを見せているインテリアプロダクトのシーンに受け入れられるために、現代的な感覚で彩られたお部屋に飾ったときにこそ、ハマる作品を作らなければならないと考えました。また石版リトグラフの「復興」「復活」といったスローガンを際だたせるためにも、新しいものが出てきた!という「登場感」も大切にしたいと思いました。
理由3|ぴったり!
「作風」が石版リトグラフに向きである、ということ。工房としても20年ぶりとなるリトグラフ制作なので、できるだけチャレンジしやすい「作風」である必要がありました。その点Mariya Suzukiさんの作品は、
●線と色の塗りとがレイヤー構造になっている
●塗りに濃淡(グラデーション)がある
といった特徴があり、石版リトグラフの持ち味を活かしやすく、作りやすい「作風」でした。
理由?4|なら!
これは理由というかなんというか...。全くの偶然なのですが、Mariyaさん、なんと車木工房のある奈良県のご出身でした!これは本当にご縁を感じずにはいられませんでした。
こういった諸々の理由や偶然が重なり、メンバーの満場一致で作画をご依頼することに決まったのです。
石版に描画してもらう
制作現場。リトペンシルの芯を常に紙やすりで削ることで、細かい描きこみも可能に。
前置きが長くなりましたが、ここから当日の制作の様子をお伝えします。
クリエイターが石版リトグラフ作品を制作するときに、一番最初に行う作業が「描画する」こと。石版にリトペンシル(色鉛筆の黒を思い浮かべてもらうと近いかも知れません)で「絵」を書いてもらう作業です。
ただ、この「絵」がのちに「版」となり、そこから「紙」に写し取られるので、できあがる「作品」は左右が逆になってしまいます(このあたり、昔やったイモ版などと同じですね)。ですのでMariyaさんにはあらかじめ左右反転コピーした下絵を持参いただき、それを見ながら石版に描き写してもらうことに。こうして描き上がった「線画」だけの版を「主版(おもはん)」と呼びます。
さらにこの「主版」をもとにして「色」を入れたい「塗り」の部分だけを描く「色版(いろはん)」を作ります。これはもちろん、使いたい色の数だけ作らなければなりません。
街並みを描いた作品の、色版。色をつけたい「窓」などの部分だけを描画しています。
今回の3作品のうち、最も版数の多い作品は主版(線画)+色版2色の計3版。10〜20kgある3枚の石版を運んでは描き、運んでは描き...。これらを製版し、それぞれ違う色のインクを塗り、紙に重ねて刷ることで、やっと作品が生まれます。
以前からお伝えしていますが、石版は大変重く、容易に持ち運ぶことができません。さらに石版には今のところ「手で描く」以外に描画する方法がありません。オンラインでさまざまなことができる中、石版リトグラフ制作に関しては今なお「その場に足を運んで手で描く」以外の方法がないのです。労力はかかります。でも、かけがえのないライブ感がそこにはあります。
また別の作品の描画風景。あえて欠けた石版に描いてもらい、プレス時につくストーンマーク=石の跡も作品に活かせれば。
画期的!?Photoshopを使った色決め
欠けた石版に描かれた描画をmacに取り込み中のデザイナー福田。アナログな工房にデジタルの申し子が!
「主版」と「色版」を作ったら、クリエイターが次に行う作業は「色決め」です。
ここで今回私たちは文明の利器を使うことにしました。DTP画像加工アプリケーションソフト、Photoshopです。
20年前なら、無限の組み合わせがある色から、作家が好みの色を一旦指定し、職人がインクを混ぜ合わせて調色。それを試し刷りしては作家からダメ出しを受け、さらに調色を繰り返す、といった気の遠くなるような作業を重ねていました。
でもPhotoshopならば、石版(主版&色版)を撮影した写真をMacに取り込み、レイヤーとして重ねて、それぞれの描画色をソフト上で変えれば、画面上で完成時の雰囲気を掴むことができます!この結果を元にインクの調色を行えば、作業効率が飛躍的にKAIZEN!これ、現場で思いついた方法なのですが、石版リトグラフ界隈では初の試みなのでは?、とちょっと興奮してしまいました。
こうして描画が終わった3作品。まだ紙に刷ってもいないのに、どれもとても魅力的。
色選びによっていろいろな季節に見えてきそうです。
ポロポロとこぼれたケーキのかけらが、石版の欠けともリンクしているように感じました。
もうひとつの作品の石版。工房の片隅に立てかけられていたので、まるでここの飼い猫のよう。
今回の、工房での作業はここまで。ここからは職人が石版を「製版」し、Mariyaさんは普段の仕事場である東京でPhotoshopデータを元に「色の本決め」。決まった色をカラーチップで工房に伝えて、いよいよ「試し刷り」を行います!
また結果をご報告いたしますのでお楽しみに! とはいいつつ、私たちが一番楽しみにしています!