日本古典文学を題材に小説連載・映像化!『遠い昔、はるか彼方』の日本の話を広めたい

日本古典文学を題材に小説連載・映像化!『遠い昔、はるか彼方』の日本の話を広めたい

西行の娘~Part 2~

武士(もののふ)の血と宿命

娘も武士の血を引くものだからだろうか。 高貴な世界を知り、その世界にいるはずの自分と現在の姿に引け目を感じ、なお且つ父への恨みも多少のこと感じながらも、淡々と現在の生活を娘は話した。 西行は娘の近況を聞いて、単純な悲しみそれ自体と自責の念に加え、無慈悲な人間の世を恨みながら、悲鳴に近い声が心で響くのを感じたのであった。 そこで、その苦痛を押し殺し、仏の道を志すものとして、なんとか悲しみの向こう側に心を追い遣ろうと努力した。 その結果、西行は、多少のみすぼらしい嘆きがこぼれつつも、なんとか娘にこう話した。 「お前さんが、この世に生まれ落ちた日から、心の中で、『少なくともこれだけは・・・』と思って気にかけてきたことがある。それは、おまえさんが、大人になるときには、少なくとも、天皇の后(きさき)に女房として、それが無理でも、ある程度位の上の宮様のもとに・・・ということだった。それが、今、このような二流なところで仕えているなどという話を聞くとは、まさか夢にも思わないようなひどい有様だ。たとえ、このまま、お前さんが今の生活を続けても、仮にそこでどんな幸運な奇跡が起きたとしても、人の世の空(むな)しき現実世界の厳しさを写実的にとらえれば、どの道、幸せな生活にはたどり着けないだろう。それならば、父は、お前さんには、出家して、母のそばにて、仏に使える身であることで得られる、浮世の良し悪しに左右されない崇高な魂を得て、奥ゆかしく暮らしてほしいと思うのだ・・・」 これを聞くと、娘は沈黙した。 だが、至って平然を装おうとした。 とは言え、どうしようもなく、目を泳ぎ、手が震えるのを娘は感じた。
コメント