日本古典文学を題材に小説連載・映像化!『遠い昔、はるか彼方』の日本の話を広めたい

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ベンの錦~Part1~

<カタストロフィ>の鐘の音

世の中は活気に沸いていた。 というより、人々は投資というメフィストフェレスの罠に嵌り、狂気に満ちていた。 誰も明日のことは疑わないし、まさか明日自分がどん底の気分を味わうなんて思いもしない。 だが、運命を変える日と云うのはある日突然訪れる。 2008年の秋のことである。 世界中に嵐が吹き荒れた。 債務履行の信用性の低い、ハイリスク貸付債権のサブプライム・ローンがはじけたのである。 長期かつ高額なサブプライム住宅債権の債務不履行が相次ぎ、各金融機関は大打撃を受け、瀕死の状態となった。 さらに悲惨なことに、当時の米国最大手リーマン・ブラザーズが倒産を迎え、リーマン・ショックとなり、世界中に波及していった。 金融機関の倒産や引締めが行われると、投資を得られない企業が雪崩のように倒産し、またそのために行われる各企業の大規模な人員削減とコスト・カットによって、失業者が街に溢れ、流通が止まり、人々は恐怖のどん底に陥った。 とくに、ことの発端となったウォール街を有するアメリカでは、連日、人々が山姥のような不安と怒りの声を上げた。 「職を与えろ!賃金をよこせ!家を返せ!金を返せ!政府は何をしている!俺らの生活をどうしてくれる!」 とにかく、一刻も早い対処が要求された。 これに対応するには、F・ルーズベルト政権下のケインズ経済学を踏襲した諸ニューディール政策か、もしくはサッチャー政権下の規制緩和などが挙げられたが、後者はそもそも米国政府が取りうる選択肢としてはあまり魅力的ではなかった。 というのも、合衆国憲法前文および修正第14条からもわかるように、合衆国政府および州が、個人の『自由』を拘束することを極力制限している。 また、そもそも『自助努力』によって下剋上をより可能とする<アメリカン・ドリーム>を獲得することが美徳とされる風土でもあり、福祉的な公助のシステムを忌み嫌っているという側面も、これに影響していた。 もっとも、ニクソン政権により国民医療保険すらも消滅していて、これ以上、政府を小さくする余地すらあまりない。 そうなると、残された選択肢はケインズ経済学によるものである。 公共事業を増やし一時的に雇用を増やす。 政府支出にて経済活動を無理やりにでも動かし、安定するまで見守る。 などといった方法である。 しかし、公共事業が完成されてしまえば、元の黙阿弥。 その際に市場が回復して、雇用が順調に伸びているといった確信は持てない。 また、政府による市民社会に対する過保護は、競争市場における市場の発展を阻害する可能性があり、米国経済の弱体化すら招きかねない。 「どうしたものか・・・」 政府は、頭を抱えていた。 皆がそうして困窮しているとき、一人の男が立ち上がった。
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