SOL'S COFFEE中島より、DEKITA時岡さんへ
お手紙拝読しました。がっしりした文体で時岡さんらしくて、
読んでくれている皆さんに時岡さんのお人柄が伝わったらいいなと思いました。
東京と福井で往復書簡をするはずが、
僕らはもう先週工事のために福井に入ることになってしまいました。
なので実は毎日時岡さんと顔を合わせていますが、この手紙のやりとりは続けていきましょう。
熊川宿が「風通しがいい」といった意味、すごくわかります。
外から来た僕らのことも快く受け入れてくれて、毎日だれかご近所の方が挨拶をしてくれます。
今日の午前中、熊川宿を歩いていたら永江さんとお会いしました。
永江さんは熊川宿の歴史の生き字引きだそうですね。民俗学や縄文について本当に博識で、歩く図書館といった方です。
永江さん、どうしたんですか?と聞くと
「半日かけてやっと書いた手紙をどこかになくしてしまって。ずっと探してたんだ。そしたらお昼になっちゃって」
と仰っていました。
データを保存しないで終了したり、
アップロード中のデータがあるのに戻るを押したり、
そんなことより詩的なことがあります。
手紙を探す永江さんを見ていろんな思いに駆られました。
自分自身はいまこの瞬間に熊川宿で過ごして生きていますが、
同時になにか時間を越えて未来から永江さんの手紙を手に入れるためにやってきたのではないだろうか。
風通しのいい毎日を熊川宿で送っています。
僕ももともと書いていた手紙があって、この内容は時岡さんのお返事を待たずに書いていたものなので、
ちょっと時岡さんの文章と噛み合わないかもしれませんが、ここに書いて送ります。
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9月19日に東京を出発して、
夜に福井県上中郡若狭町熊川宿に到着して、
宿場の裏の蔵でお世話になっています。
今回の滞在中にカフェスペースの内装部分と、焙煎機の設置と試運転があります。
いろいろ準備していただいてありがとうございます。
たごころ農園さんの米も分けていただいて嬉しかったです。
さっそく蔵の中で米を炊いてみんなでいただきました。
蔵前からはぼくと奥さんと娘、汁無し担々麺屋さん、京都の先生、あと義肢装具師、それに映像作家もいます。
多様な面子のみんなで味噌汁とご飯を食べて、残った米はおにぎりにしました。
蔵前から来た人たちが蔵のなかにいるのはなかなか面白い光景です。
9月20日に熊川宿に設置する新しい焙煎機が来ました。
富士珈機のフジローヤル10kgのマシンです。
焙煎機は洗濯機を横に倒したような構造で、釜の下部にバーナーがついていてドラムを暖めます。
ドラムは半熱風式にするか、直火式にするかで迷いましたが、現状は半熱風がついています。
直火式ドラムはパンチングの穴が開いていて火が直接当たるため、ロースト香や風味ゆたかに焙煎できると言われています。
半熱風式ドラムは穴の無い鉄板のような構造でドラム自体から伝わる熱と、
ドラムの中に吹き込む熱エネルギーの風で焼き上げていきます。しっかり芯まで火が通る焙煎ができると言われています。
SOL'S COFFEEが今まで使ってきた焙煎機が半熱風式ドラムだったから、今度も半熱風式ドラムで焙煎します。
しかし正直なところ直火のコーヒーも焼いてみたい。今回焙煎機にもともと付いていたドラムが直火式だったので、
なんと現場には両方のドラムがあります。もしこっそり直火で焼いたらコーヒーを淹れてお持ちしますね。
今回納品されたフジローヤルはバーナーが増設されていて本来は18本のところ、21本のバーナーがついています。
凄い火力です。電力も関西側の60hzで動いているので排気も強力です。
熱効率も非常によく、すぐに暖まって焙煎できます。
温度計が2本ついていて釜のなかの温度と排気の温度がphidgetというデバイスを通してパソコンで温度上昇をモニタリングできます。
artisanという海外の焙煎アプリケーションで焙煎プロファイルは全部グラフ化されます。
凄いパワーの機関車と最新の理詰めのデータ管理が同居したような素晴らしいマシンです。
納品されたあと、試運転で1バッチ焼いてみました。
機体は中古なんですが、ドラムは新品だったので、コーヒーの油を馴染ませるような感覚で深炒りに焼き上げました。
インドネシア・アチェ・アルールバダでした。このときの初めてのバッチを自分は一生忘れないと思います。
上昇していく熱エネルギーも、ぐんぐん引かれていく排気の風力も、マシン右側操作パネルのスプーンを左手で抜く動作も、初めて出会う体験でした。
焙煎機を設置してくれた福島さんが外の煙突の様子を確認してから中に入ってきました。
「焙煎の香りがしてきたよ」
次第に熊川宿の地元の人たちも集まってくれました。
すごい機械だな!
なにやってんだ?
コーヒー豆って焼くところからやるのか!
いつからやるんだ?
粉にもしてくれるのか?
いい匂いがするよ。
うれしいな。
美味しいコーヒー焼いてくれよ。
最初のバッチは全然うまく温度がコントロールできず、真っ黒焦げになってしまいました。
最初は試運転、わざと深く焼いたとわかっているのに、
なんだか顔から火が出るほど恥ずかしかったし、何に悔しいのかわからないほど悔しかったです。
撹拌され、冷却されたばかりのインドネシア・アチェ・アルールバダを噛んだら、
ものすごく苦くて、何のフレーバーも無かった。
愕然としました。
今までの操作はなんだったんだと自問自答しました。
失敗は当たり前だ、新しいマシンの特性をつかむまでは何度も失敗するしかない。
みんなに美味しいコーヒーを飲んでもらえるようこの機械ともっと仲良くなろう。
自分はこのあまりにも苦い最初のバッチのアチェを絶対に忘れません。
次の朝、9月21日。熊川宿は雨に濡れてひんやりしていました。
蔵から出て表通りを左に曲がると煙草の灰皿があって映像監督が煙草を吸っていました。
おはよう。
いまから豆を焼いてくるよと言うと彼は頷きました。
うん。いってらっしゃい。
少し歩けばSOLSCOFFEEが入る予定の菱屋という平屋があります。
ここは元は牛舎だったそうですね。もともと動物たちがのんびりしていた高い天井の下にいまは焙煎機が鎮座しています。
インバーターをrunにして、
焙煎のスイッチをONにして、
プロパンガスの元栓を開け、
種火に点火してバーナーに火をつけました。
パソコンを立ちあげてartisanで温度計が機能しているか見ます。
全部の作業をはじめてから暖気が終わるまで15分もかかりません。
この速さ自体が新しい経験でした。
前は一時間近くかかっていたから。
朝から3バッチ焼いてほんの少しだけこのマシンの感覚がわかってきました。
最後にブラジル・カルモデオーロ・ウォッシュドを1ハゼ後30秒まで焼きました。
理想的な焙煎グラフの曲線を描けたわけではありませんが、噛んだらいつものフレーバーがありました。
まだまだグラッシーで未発達ですが、カルモデオーロはやはり甘い。
自分の技術の未熟さも受けとめてくれました。
このマシンはスペシャルティーのコーヒー豆を焼くための素晴らしいパワーとスペック、データ管理能力を持っています。
しかし、SOL'S COFFEEのお客様はそれだけでは満足しません。
このフレーバーを保ったまま、次第に深煎りの世界に踏みこんでいこうと思います。
一番最初のアチェはSOL'S COFFEEの入っている菱屋に保管してあります。
時岡さん、今度一緒に飲みましょう。なにしろ苦いですよ。
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どんな味がいいかは難しい問題です。
SOL'Sは自分たちの味を押しつけるつもりは全くないので、
熊川宿の地元のみなさんと一緒にコーヒーを飲みながら決めていきたいと思っています。
もちろん東京ですでに受け入れられているコーヒーもあるのでその味も再現しながら、
ああだこうだ言って作っていきましょう。
毎日飲んでもからだにやさしいコーヒーがそばにある生活を熊川宿のみなさんと一緒に送ることがとても楽しみです。