やっぱり裄丈
――裄丈。着物を着る人、特に体の大きい方は気になるポイントじゃないでしょうか?
裄丈とは、着物や羽織など袖の付いている和服の、背縫い(背中の中心の縫い目)から袖口までの横一直線の長さのこと。腕の長い方の裄丈が長くなるのは、洋服と同じく当然のことです。
着物が今よりも一般的だった大正・昭和時代の人々と、令和を生きる我々とでは体の大きさが全く違います。リサイクル着物を買ってみたはいいが、裄丈が『つんつるてん』になってしまうのはこのためです。
着物のことを知らない方はここで、「いやいや、生地を長めに裁断して裄丈長く作ればいいじゃん?」とお思いでしょう。
極端な回答を申し上げるならば「そういうのはなかなか作れない」んです。。。!
一般的に洋服とは異なる数値になります。ちなみに大宮(身長181㎝)の着物は裄丈77㎝です
和服は「反物」という独特な形の生地から作られます。
何が独特なのか。
長い。とにかく長い。
着物1着分だいたい12m。
京都の金閣寺の高さとほぼ同じです。
そして狭い。約36㎝。
小学生の時にもらった竹の物差しに、ちょっと足したくらいしかないんです。
鎌倉の長谷寺大仏は約11mです
着物や羽織は、この長い反物をほぼ余すことなく切り分けて、右袖、右身頃、左身頃、左袖の縦4つを主として、衿や衽、マチ等のバーツを加えて構成されています。
なので単純に、裄丈はどんなに頑張っても反物巾×2-1㎝(縫い代)の長さまでしか出せないのです。袖に足し布するほど生地が余ることもほぼありません。
着物の裄丈の仕組み
もちろん例外もありますし、現代では体の大きさに合わせて長さ13m、巾39㎝に増やしたものや、男物向けとして巾40㎝以上で作られた「キングサイズ」なんてものも作られています。着物用の反物を使って羽織を作れば、袖に布を足すこともできるでしょう。
ただ、やはりそういった反物がたくさん作られているワケではありませんし、お気に入りの反物を見つけて和裁師さんに仕立てをお願いして。。。となれば、お値段も高くなるのは当然です。
だからこそ、手にしやすいコーデュロイ生地で、裄丈を長くした羽織を!
そしてたくさん作れば単価を抑えられるので、さらにお安くお届けできる!
そんな狙いも含めて、今回クラウドファンディングという形で開発を企画しました。
せっかく洋服生地ならば
もちろん、ただ「長ければいい」ってもんじゃありません。
一般的に反物を使って裄丈をいっぱいいっぱいまで出そうとすると、肩巾と袖巾を最大限まで出しますから、ほぼ肩巾=袖巾の長さになります。
これで問題解決!と思いますが、実はそうではないんです。
男性はあまりピンとこないと思いますが、女性の着物は袖と脇が縫い止まっておらず、ひらひらと開いているのです。「身八ツ口」といいます。ココに課題が。
読み方は「ミヤツク(グ)チ」だったり、 「ミヤツ」「ヤツクチ」だったり。
着物は後からでも寸法直しができるサステナブルな衣服です。しかし、仕立てる時は当然着る人に合った寸法で仕立てますから、身八ツ口周辺の寸法も人によって変わってきます。
だからリサイクルなどで着物や襦袢(着物の下に重ねて着るもの)やアウターを買い集めて着てみると、Aの寸法の襦袢にBの寸法の着物を着て、Cの寸法の上着を着ることになるので、「身八ツ口から下に重なっている布が飛び出てきてしまう」なんてことが結構あるんです。
リサイクルでありがちな、襦袢袖の飛び出し
ここで実験です。
赤が裄丈の長い羽織、黄が裄丈の短い着物。それぞれ袖幅=肩幅です。
重ねると、羽織の内振りから着物の袖が出てしまっています。
これは「着物の裄丈が短いので、裄丈をいっぱいまで出した羽織を着てシルエットを隠す」という、ありがちなケースの簡単なシミュレーションです。
羽織の袖巾も肩巾も着物より広いはずなのに、振りの内側から着物の袖が出てしまっていますね。
もちろん「そんなの気にしない」って方は、気にしなくていいと思います!
でもせっかく作るなら、そんなお悩みも解消できるアイテムを作りたかったので、今回の羽織は。。。
袖巾『だけ』広くした羽織を作りました!
緑が袖幅だけ大きくした羽織、黄が先ほどと同じ着物。
袖、スッキリ~!!
反物ではなく洋服生地だからこそできる工夫です。
こうすることで、下の着物の袖を置いてけぼりにすることなく、羽織の袖の中にしっかりと収めることができます。
「逆に着物の肩巾が広い場合は?」と思われるかもしれませんが、ご安心を。
基本着物はバスト下(身八ツ口中程)まで帯で絞められていますし、それに対して羽織はゆるっと羽織るだけなので、肩の布が飛び出てくるということは無いと言えます(少しチラッと見えることがあるかもしれませんが)。
またこの他にも、肩回りや胸周りの布が余ってダボっとした気姿になってしまうことも防いでいますから、男女ともにスッキリとした気姿を楽しめると思います。
2つめのキーワード「8」
数字が続きましたね〜