2015年、写真家ハービー・山口さん(以下、ハービーさん)とコラボレーションし、理想のカメラバッグを制作するプロジェクトが立ち上がり、私(DOUBLE O DESIGNBOOKデザイナー大内)が企画担当となってハービーさんとデザインのやり取りをさせていただいていました。しかし最終サンプルまで開発されたものの、発売に至らず企画はお蔵入りになってしまいました。
そして2022年2月に私が独立することを機に、以前とは全く違うデザインで、再度カメラバッグを作らせて欲しいとご提案させてもらい、この製品を開発することになりました。以下は、最終サンプルが完成したタイミングで、「フォトグラファーズバッグ」ついてインタビューさせていただいた内容です。
ーーーー再び、カメラバッグをデザインさせていただくことになりましてありがとうございます。ここまで2年半、当初のプロジェクトを含めると、6~7年経ちました。ようやくここまで来ることができまして大変感謝しています。
これまで随分時間をかけてきましたね。既製のカメラバッグの裏地に僕の写真をただ使っただけではなく、設計から全く新しいものを作り上げることによって、こういうことがあるともっと使いやすくなるのでは? といった要素も、たくさん詰まったデザインやディテールに仕上がっているのが良いですね。
ーーーーバッグの裏地には、私が以前からとても好きな写真“Dancing frag London 1981”を使用させていただきました。1,677万色のデーターを生地に繊細にプリントできる特別なシステム、ビスコテックス®︎を採用し、再現性を高めました。この写真を撮られたときの状況はどのような様子だったのでしょうか? 当時ハービーさんが感じていたことを、このカメラバッグが気になっている方に、お伝えできればと思います。
1981年、ダイアナ妃がご成婚されたとき、ロンドンはもちろん世界中がお祝いムードになっていました。僕はその雰囲気を肌で感じるためにトラファルガー・スクエアへ足を運んだのですが、そのときに撮った一枚が、今回裏地に使用している“Dancing flag London 1981”と名付けた写真です。若者5、6人が大きなユニオンジャックを持ち、それが波打っていた躍動感を捉えました。この日を象徴している写真です。
僕がこのときに感じたことは、国境や言語を超えて、一つの祝い事に一つの心を寄せ合っているということ。皆が一つになるということが何よりも大切ということでした。1981年“人類として何が一番幸せなのか?”と、考える余地があったのかなと感じています。そしてこの写真を通して、現在自分たちは何をすべきなのか?と、心に刻み込んでくれたら、この写真を使ったカメラバッグを制作する意味があると思っています。
「Dancing flag London 1981」 ®︎HERBIE YAMAGUCHI
ーーー今回、カメラバッグをデザインするにあたり、カメラや荷物の収納について、ハービーさんの持ち物を参考にさせていただきました。バッグの内装には前後にポケット、インナーボックスにはサイドポケットが付いているので、セッティングした時には4方向に収納が実現する構造です。オシャレさと機能性のバランスを考えて、ハービーさんに普段のローテーションのバッグとして使っていただけるように想いを込めました。
フォトグラファーズバッグは、私が常用しているモノクロ専用機の“ライカ・M10モノクローム” に“ライカ・ノクティルックス 50mm F1.0”を装着して入るようにリクエストしていましたからね。その他にもいつも持ち歩いている、お財布、名刺入れ、携帯、ボールペン、スケジュール帳などが各ポケットへ全て干渉せずキレイに入りました。見た目よりもたくさん入るバッグに仕上がっていますね。
カメラが好きな人はカメラバッグも好きで、私の知っている写真家は10個ほど持っている人も多くいます。でもその中で使うのは2~3個程度です。ヘビーローテーションするバッグには何か理由があるんだろうと自分に当てはめて考えてみたところ、オシャレなデザインや実用性、身体へのフィット感などの使いやすさがその理由になっているのでは、と感じていました。今回のフォトグラファーズバッグには、それらを満足している点がありますね。
ハービーさんの愛用カメラ“ライカ・M10”と“ライカ・ノクティルックス 50mm F1.0”と普段の持ち物を基準にバッグのサイズを検討。
ーーー先程のお話の中でもお聞きした“ライカ・M10モノクローム” と““ライカ・ノクティルックス 50mm F1.0”のサイズを基準に作った、カメラ収納のインナーボックスのワッペンには、ハービーさんが掲げている大切な言葉、“Stay Punk”を入れさせていただきました。この言葉はいつどのようなときに生まれたのでしょうか?
未だ世界のロック界に強い影響をもつ方とのエピソードになります。1981年、ロンドンに住んでいる頃、地下鉄で当時人気を誇っていたThe Clashのギターボーカルのジョー・ストラマーさんを、オックスフォード・サーカスステーションのホームで見かけました。私は恐る恐る近づいて、「ジョーさんでいらっしゃいますか?写真を撮らせてもらってよろしいでしょうか?」といったら”OK"と言われ、同じ電車に乗り込んで数枚撮らせてもらいました。その後、彼はクイーンズウェイで降りて行くんですけど、こちらを振り返って、「君ね、撮りたいものはみんな撮るんだ、それがPunkなんだ!」と声をかけて去っていきました。
人に迷惑をかけないで、妥協のない人生を送ろうぜ、それがStay Punkなのだと、ジョーさんが願うPunkの精神を伝えてくれたのではと思っています。その言葉で、当時30歳の自分は勇気をもらうことができました。以来、”妥協しないで自分の信じたことをやり続けようと決心して、写真はもちろん、どのようなことでも通じる言葉“Stay Punk”を添えるようにしています。
ーーー最後の質問になります。今回のラインナップの中でお好きなバッグの候補を教えていただけますか? 普段のローテーションで使いたと思うのはどのタイプでしょうか。
高級感を感じることができる“オールホースハイドレザー”と、“コットン×ホースハイドレザーカーキ”です。カーキはどこかロンドンを感じることができるような生地感が気に入っています。カメラバッグにはデザイン、機能美、大きさ、色、時代性など、いろいろと考える要素がたくさんあるのですが、フォトグラファーズバッグは、機能性だけでなく見た目もかっこいいバッグで、楽しみながら使うことができます。たとえば出会った人に「素敵なバッグですね!」と言われるのはとても気持ちが良いことなんです。このバッグに刻まれた私の言葉“Stay Punk”のストーリーを思い浮かべながら、バッグを手にした人にとって、これからの人生で新たな出会いや発見があれば嬉しく思います。
今後も違うテーマなどで、これまでにないような新たなスタイルのカメラバッグが開発されることを楽しみにしています。
ーーー優れたカメラバッグを作るという目的を越えて、今回、特別な価値をもったデザインが完成したと思っています。ハービーさんの想いが、誰かのストーリーに繋がって続いていくことが今から楽しみです。チャンスを作り、今後も魅力あるカメラバッグを作っていきたいと思います。
念願だったファトグラファーズバッグの制作、ご一緒できて光栄でした。ハービーさん、この度は本当にありがとうございました。
ーーー神保町・SUPER LABO TOKYOにて開催されていたはハービー・山口さんの写真展「TOKYO EYES」の期間中、2022年3月4日にインタビューをさせていただきました。
気に入っていただいた「コットン×ホースハイドカーキ」と「オールホースハイド」と、ハービーさん愛用の“ライカ・M10”と“ライカ・ノクティルックス 50mm F1.0”を並べて。
バッグ内側に記された”Photographer’s Bag to carry your dream” あなたの夢を運ぶバッグ、カメラを運ぶではなくて”あなたの夢を運ぶ” 非常にいいコンセプトですね!」