"左手のピアニスト" の挑戦を成功させたい！4つの協奏曲に挑む傘寿記念コンサート

2015年の6月、舘野泉さんとお酒を酌み交わして楽しい時間を過ごしていたとき、信じられないお誘いを頂いた。 　「来年のリサイタルでは、坂入君の指揮と仲間たちのオーケストラで、全て初演となる協奏曲作品を３つ取り上げたい」・・・さらに、取り上げる曲目はいつも舘野先生と日本初演を夢見ていたヒンデミットの左手ピアノのための協奏曲、そして平野一郎さんの40分もかかる大作協奏曲とシュタールさんの新作協奏曲だという。全てが心躍る企画だった。そのお誘いを私は喜びのあまり、二つ返事で引き受けた。 　そして、その日のうちに2人で演奏したいホールを話し合って、第一生命ホールでの共演がベストだという話になった。すると、その2日後には舘野さんから、第一生命ホールを来年の6月18日に確保した旨、メールを頂いた。舘野さんの尋常ならざる行動力に感服するとともに、舞い上がるほど嬉しかった。こうして、瞬く間に2016年6月18日の演奏会の企画が決まった。 　私が指揮している、東京ユヴェントス・フィルハーモニーは、2008年に一般の大学生を中心として結成したオーケストラで、現在では社会人が大半を占めるアマチュア・オーケストラだ。普段われわれの演奏会では、専らベートーヴェンやブラームス、マーラーなど、名の通った過去のオーケストラ作品を演奏する。なので、演奏曲目が全て初演作品というのは前代未聞のこと！ 平日には夜遅くまで働いていたり、学校に通っていたりするメンバーが大半なので、練習が出来ない平日には、通勤通学中の時間を割いて過去の演奏を収録したCDを聴きながら譜面を読み、イメージを高めて練習に臨むものだが、全てが初演作品なので、どの曲も録音を頼りにできない。自分たちが出す音がすべてなので、最初は不安と戸惑いに溢れていた。そのため、練習は想像を絶するほど難航した。正直なところ、今年の4月に初めて舘野先生を迎えて、オーケストラとのリハーサルをした日は、まだまだ全体像が掴めずにいて、舘野さんに迷惑をかけるだけかもしれないと、とてもお迎えすることが心配だった。しかし、舘野さんがいらして、奏でた音と合わせて練習した途端、オーケストラの出した音が、いかに舘野さんのピアノと一緒に溶け込むと素晴らしい響きになるか、全員が瞬時に気づくことができ、3時間の練習を終えると見違えるほど作品の姿が浮き上がってきたのだ！ 　それでも、ウィーン・フィルハーモニーでヴァイオリ二ストを務めながら作曲をしているルネ・シュタール氏が書いた協奏曲「ファンタスティック・ダンセズ」は、世界中探してもなかなか無いほどの難曲（そして名曲！）だったため、本番直前までうまくいかなかった。譜面をいくら読み込んでも上手くいかない部分があり、私も悩みに悩んだ。譜面を家に篭って読んでいたら突然高熱にうなされて3日間寝込んでしまったほどだ・・・(笑)　しかし、そんな苦境のなかでもリハーサルの時間は常に幸せな時間だった。舘野さんからも、オーケストラのメンバーからも、弱音や諦めの言葉は一切出なかった。うまくいったら、お互い笑顔で拍手し合う。気付いたことがあれば、皆で議論する。普段以上に皆の集中力がポジティブに集結したリハーサルとなった。 　そうして、良い雰囲気のまま迎えた演奏会本番では、舘野さんと私がどちらも切望した第一生命ホールの素晴らしい音響にも恵まれて、練習では起こり得ない素晴らしい瞬間を体験した。なかでも、メインプログラムに据えた平野一郎氏の大作、左手ピアノ、ヴァイオリンと小オーケストラの為の二重協奏曲『星巡ノ夜』は、舘野泉さんのピアノと舘野ヤンネさんのヴァイオリンの響きが言葉に出来ないほど美しく、今まで見たことの無い音の色を、世界を、垣間見ることが出来て、生涯忘れることの出来ない初演演奏会となった。 　舘野さんとは、ラヴェル、ヤナーチェク、ヒンデミット、ブリテン、吉松隆氏、エスカンデ氏、シサスク氏、平野一郎氏、シュタール氏と9つもの左手ピアノのための協奏曲を共演する機会に恵まれた。この上ない幸せだ。そしてこれからも、もっともっと想像だにしない新たな瞬間を体験できる共演が出来たら、と期待に胸をふくらませている。 指揮者　坂入 健司郎 ---------------------------------------------- そして2016年11月【舘野泉 傘寿記念コンサート】を開催！ 4つの協奏曲を弾く、壮大なコンサート！ 2016年11月10日(木) 19:00　東京オペラシティ コンサートホール