まるまどの小松洋一です。
8月は、あと2回の活動報告を予定しています。今回は、「みかん酵母パンとは何か」をご紹介します。そして、次回は「みかん酵母パンの美味しい食べ方」です。
「みかん酵母パン」は、私が2015年4月に地域おこし協力隊として、柑橘栽培の盛んな今治市上浦町(大三島)に赴任したことから始まります。
地域の特産品である柑橘を使って、地域のアピールに繋がる商品開発ができないかと考え、「柑橘酵母パン」の開発をはじめました。当初は温州みかんだけではなく、レモンや八朔、デコポンなど色んな柑橘から酵母を起こして、パンを焼いたら面白いと思い「柑橘酵母パン」と言っていたのです。でも実際に酵母を起こしてみるとレモンや八朔は果実に糖分が少ないため、砂糖を加えないと酵母が活性化せず、さらに皮の苦味が残りやすく、あまりパンには向いていないということが分かりました。
一方で、温州みかんは、蜜柑の糖分だけで酵母が活性化し、しかも非常に強く、安定していました。
このことから、多様な柑橘から酵母を起こすという当初の考えを諦めて、温州みかん(南柑20号)でパンを焼こうと決めたのです。それで「柑橘酵母パン」から「みかん酵母パン」に変えました。
みかん酵母の培養の仕方は、次の通りです。
酵母菌は、蜜柑の皮の表面についていますので、汚れを軽く洗い流す感じで、まずは蜜柑を洗います。皮を使うため、蜜柑は無農薬栽培のものです。
皮を剥いて、房にばらした蜜柑を1Lの瓶に詰めて、麺棒でつぶしていきます。大体、無農薬栽培の蜜柑を20個くらい使います。果実が少し残るくらいのつぶし方で大丈夫です。
可能な限り空気が入らない位まで蜜柑を入れて潰し、その中に温州みかんの皮を2個分入れます。そして、冷蔵庫に2週間以上保管するのです。
この冷蔵庫に入れる手法は、自家製酵母培養の第一人者であるウエダ家を参考にしました。
ウエダ家HP: http://cobo-net.com
教えてウエダ家さん:http://karadastyle.ismedia.jp/articles/-/7
可能な限り空気を入れずに冷蔵庫で培養することで下記のことが起こるようです。
・嫌気性植物性乳酸菌が瓶の中の雑菌を退治
・低温に強い乳酸菌が育つ
・常温に戻した後に、乳酸菌と酵母菌が拮抗、次第に酵母菌が優勢になる
私の場合は、冷蔵庫に3週間くらい入れます。2週間後くらいから定期的に蓋を開けて、空気をいれ、瓶を振ります。そして、1週間が経過すると、気泡が出はじめて、蜜柑が溶けたようになってきます。
このトロっとした蜜柑は食べることも出来ます。ちょっと甘味が抜けて、発酵の香りがして、口の中で発泡する感じがあります。これは、とても美味しいです。見た目は悪いですけど、きっと胃腸によいと思います。
冷蔵庫に3週間入れた酵母液を、常温に戻すと一気に発酵が進みます。常温(25度程度)で3日間くらい置いたら、強く発泡するようになり、パンを焼ける酵母液になるのです。
この酵母液でパンを焼くことは可能ですが、有機栽培の蜜柑を20個使って、さらに培養に3週間かけて、焼ける量は食パン2斤分しかありません。。。物凄く少ないです。
開発し始めた当初は、この酵母液で直接パンを焼く手法(ストレート法)を採用していました。でも、あまりに手間がかかること、量が焼けないこと、そしてパンがそれほど美味しく焼けなかったことから、ここからさらにひと手間加えることにしたのです。
粉100に対して、酵母液60の割合で混ぜて、まずは発酵させます。大体、2倍くらいの大きさになるくらいまで。2倍になったら、一度冷蔵庫で休ませます。冷蔵庫で休ませた酵母に、さらに粉と水を加えて、さらに2倍くらいになるように発酵させます。ここで出来たものを「発酵種」と呼んでいます。
これを1週間くらい繰り返すと発酵種が安定して、パンを焼くことが出来ます。現在焼いているパンは、1年半この粉と水を与えて培養を続けたみかん酵母の発酵種で焼いています。上手く酵母を管理すれば、半永久的にパンを焼くことできるのです。
これは、ヨーロッパの伝統的な酵母管理の手法です。水分量が少ない「硬い発酵種」は「ハードルヴァン」と呼ばれています。ルヴァンはフランス語で、日本語では発酵種、英語ではサワードウ(Sour Dough)です。
ルヴァンというと、通常は水分量が100%ある液体状のリキッドルヴァンが多いです。
私がハードルヴァンを採用しているのは、次の理由からです(経験上の理由)。
・酸味の管理が、リキッドに比べると容易
・酵母は、ミキシングでグルテンが作られているので、ふっくらしたパンが焼ける
(リキッドルヴァンに比べてパンの骨格がしっかりできる)
今の自分には圧倒的に製パン技術がないので、液体状のリキッドルヴァンでつくるとどうしても酸味が出たり、パンにボリュームが出ないのですが、ハードルヴァンだと冒頭の写真のようにふっくらしたボリュームのあるパンを焼くことができます。
通常パンを焼くときには、パン生地に20%くらいこの「みかん酵母の発酵種」を含めています。その他にイーストなどの酵母は加えません。20kgの生地でパンを焼く場合には、4kgくらいの発酵種を使うので、酵母の管理は意外と大変です。
でも、この酵母であるが故に、まるまどのパンは他にはない独特の個性があると思うのです。
・パンを持つと、ずっしりと重たいのに、食べると意外と軽く、体に溶け込むような感じがあること
・見た目はハード系で硬そうなのに、食べると歯切れよく食べれること
・程よい酸味が、バターやオリーブオイルと合わさって絶妙な旨みを感じること
これらは、私たちのパンの大きな特徴であり、強みです。勿論、食べる人によって合う合わないはあると思うのですが、今世の中にあるルヴァン種を使ったパンの中では食べやすく、親しみやすい味わいになっていると感じています。
この製パン手法は、下記の文献を参考にして実現しました。
・ルヴァンの天然酵母パン 甲田幹夫著
・BREAD ジェフリー ハメルマン著
・TARTINE BREAD CHAD ROBERTSON著
何千年とあるパン作りの歴史の中で、価値があるとされたものをまずはしっかりと理解して、自分のパン作りに活かしたいと思っています。今、自分がやっていることは、何一つ新しいことはないのですが、何を選択して、どう自分のパン作りに活かしていくのかには個性が現れます。
現存する製パン手法の何を採用して、どんな食材と組み合わせていくのかで、パンの個性はいくらでも創れますし、大三島固有のみかん酵母を使ったパンと、大三島の食材でつくるパンは、大三島でしか味わえないものになると信じています。