茅ヶ崎にやってきました!
訪ねたのはレトロな一軒家、和裁所「針箱」さんです。
2019年の浴衣プロジェクトはこちらで仕立てていただく予定。
サンプルの生地で、そのプロセスを拝見します。
最寄りは「茅ヶ崎」駅。県外から通う生徒さんもいらっしゃるそう
針箱さんに仕立てをお願いする理由、
それは何と言っても、この人の存在抜きには語れません。
二瓶一枝(にへい・かずえ)さん、88歳の現役和裁士です。
笑顔がとても素敵な二瓶一枝さん
昭和5年、山形に生まれた二瓶さんは、7人きょうだいの長女。
幼い頃から弟妹の面倒を見ながら、針仕事をしていたそうです。
戦争が終わり、結婚してからも和裁で家計を支えました。
国家検定の合格証書
約30年前に始めた和裁教室と和服縫製業に加え、着付教室なども併設してできたのが、現在の「針箱」です。
二瓶さんを中心に、頼もしい若手スタッフが活動しています。
広い和室に裁ち台が並ぶ作業スペース
和裁所で仕立てられる和服はいろいろあります。
小紋や訪問着はもちろん、振袖、比翼の付いた留袖、コートに長襦袢、作務衣、甚平、ちゃんちゃんこ・・・・・・
そしてもちろん、浴衣。無事、生地が届いていました。
サンプルとして染めた「丸久げんやだな」
染工所で染められた生地は、水通しして和裁士のもとに届きます。
裁断にあたっては布目が整っていることがとても重要なので、蒸気を丁寧にあてながら、地直ししていきます。
※水通し=生地は洗うと縮むため、仕立てる前の下準備として水洗いしておく。
丁寧にアイロンをかけていく
【柄合わせ】
いよいよ仕立てに入ります。はじめの作業は柄合わせです。
反物を広げ、全体の柄行きと寸法を確認し、柄の出し方を決めていきます。
まち針で仮止めしてイメージを確認
なにげない作業のようですが、じつはこれが大仕事。
「柄がうまく出るようにと考えると、場合によっては丸一日かかることもありますよ」と二瓶さん。
ここは着物全体のデザインが決まる場面。
和裁士さんの仕事の醍醐味でもあり、ひとつめの山場でもあるようです。
まるでパズルをはめていくような頭を使う作業
「丸久げんやだな」は昔の型紙をベースにしているためか、二瓶さん曰く「昔の柄は職人さんが(浴衣や着物のことを)よくわかっているから、柄合わせもしやすい」とのこと。
着物のつくりや仕立てについても熟知した職人さんが作った昔の柄は、やっぱりいいんだなあ、と実感します。
並べ方で印象がだいぶ変わります
【裁断】
柄合わせをしながらオーダーの寸法に折り返された反物は、一番の山場、裁ち(裁断)に入ります。ここは和裁士さんがもっとも緊張する場面。
一度鋏を入れたら取返しがつきません。見ているこちらにも緊張が伝わってきます。
何十年やっても慣れることはなく、何回も寸法を確認するそう
緊張感がありつつも、地の目(じのめ=横の糸)を見ながらスイスイと反物を裁ち分け、左身頃、右身頃、袖2枚、衽2枚、衿、掛衿の8つのパーツになりました。
衿と衽を裁ち分けているところ
表裏や上下がわからなくならないよう印を付けます
【縫製】
次は「縫い」の作業です。
8つに分けられた「生地」から、「きもの」が生まれる工程。
裁ちのときのドキドキに比べ、ワクワクが膨らみます。
「裁ち」を終えてほっとひと安心の二瓶さん
縫うためには、印が必要。
ここで活躍するのが「コテ」などの道具です。
和裁士さんの傍らには、「電気コテ」が用意してありました。
「コテ」を使うと、左右同じ寸法をする箇所に生地を重ねて一度に印が付けられたり、印付け以外にも、ちょっとしたアイロン代わりに併用できるとのこと。
他にも印付け道具として「チャコ(和裁用)」「ヘラ」などがあります。
印をつける作業は「印付け」「ヘラ付け」と呼ばれる
生地の素材や色に合わせて糸を決めたら、縫いにとりかかります。
印をつけては、縫う。
これが始まったら、もうゴールは近いのだそう。
「くけ台」や「掛け張り」など、和裁ならではの道具が活躍する工程です。
どこの部分を縫っているかはいつも意識している
「常に布を扱っている和裁士は指先がつるつるになるのよ。
と二瓶さん。
「ほら、指紋がなくなっちゃった!」
と指を見せてくれました。
ここにも長年の仕事の軌跡が刻まれています。
布を汚さないようにとても気を遣う
【仕上げ】
縫い終わったサンプルを用意しておいてくださったとのことですが、どこにあるんだろう??と探していると、
「ここでーす」
と一言。
「丸久げんやだな」は、2枚の板の間に挟まっていました。
見つけた!しかしどうしてここに??
「縫い終わったら、きれいに折り目をそろえて畳み、ちょっとの時間でも押しておくんです」とのこと。
なかなか重量のある板なので、確かにプレス効果がありそうですが、「この上に座ったりもしますよ」ときいて、昔おばあちゃんがしていた「寝押し」を思い出しました。
きれいに畳まれています!
さて、仕上げの作業はここから。
一番にするのが検尺(寸法チェック)と、検品です。
きもの全体を丁寧に確認したら、検針へ。
縫製の際に使った待ち針や縫い針がきものの中に残っていないか、検針器にかけてチェックします。
ゆっくりきものを送りながら慎重に確認
検針が済んだら、最後のアイロンをかけて畳みの作業です。
もう仕上げも最終段階。納品のための畳紙(たとうし)を傍らに置いて丁寧に畳んでいきます。
お渡し前の仕上げ。丁寧にアイロンをかける
仕上がりをチェックしながら畳みます
完了!これできものは和裁所から卒業です。
ちょっと寂しいような、でもなんだか晴れやかな気分。
(写真)たとう紙に包まれたサンプル
旅立ちの準備が整いました!
わが子を送り出すような気分ですか?と二瓶さんにうかがうと
「うーん、でもここにまた来るかもしれないから」
と笑顔。
そう、手縫いだからこそ、仕立て直しもできるのです。
ひと仕事を終えて、ほっとしています
ミシンで縫った場合に比べ、手縫いでの仕立ては生地の傷みが少なく、サイズを変えて仕立て直すことが可能です。
1本糸なのでほどきやすく、洗い張りを前提にする場合は手縫いに限ります。
また、今回お願いした反物は、注染(表裏無く染めてある)なので、表が汚れたら裏を返したり、傷んだ箇所を目立たないところに移動させたりしやすい。
この「使いきれる」利便性も、注染が好まれた理由でした。
さて、これでサンプル浴衣が完成!
早く袖を通したくてウズウズします!